•  新しい京都のデザインを創出

設計趣旨

現代における京都の共同住宅には、景観条例等の要求もあって1、2階と最上階に庇を付けているものが多く見られる。
しかし、そもそも町家には4~5階建というものは存在せず、1~2階間の庇の間隔も厨子ニ階や元々の階高が低いこともあり、現代の共同住宅の1~2階の底間隔よりも狭い。また、京都らしさの演出としてか、外壁に格子を表層的に貼り付けたデザインも多く見られるが、そもそも町家における格子は人通りの多い道と屋内空間との視覚的緩衝材として開発されたものであり、開口部でない場所に取り付けるものではなかった。結果、現代の京都ではバルコニー付の間延びした外壁に記号的に扱われた庇や格子を用いるデザインが多く見られ、伝統的スケールと現代における与件の軽合性が取れないままに街並みが形成されつつある。
本プロジェクトの敷地は2面道路に面しており且つ片方の道幅が大きく開けている立地であるためファサードが街並みに与える影響は特に大きい。
以上を踏まえて、4階建ではあるものの条例を遵守したうえで本来の京都らしいデザインを取り込みつつ良質でアイコニックな外観となるよう注力して設計した。 具体的には、江戸時代から明治時代の伝統的な京町家に見られる底と庇の間隔を踏襲して17ロアあたり 2枚の庇を取り付け、出幅を変えることでその陰影にリズムを持たせつつ、外壁保護の強化と夏場の日射によるコンクリートの温度上昇を抑えることを実現した。 また、本来の機能である外部と内部とのインターフェイスとして道路際の全ての開口部に格子を取り付け、視線と日射の制御、通風を両立させた。 更に、1階の住戸の開口部が道路と近いことに配慮して、格子に加えて犬矢来を取り付けることで通行人と居室との間に物理的な距離を確保した。 エントランスアプローチには、隣地との間の既存塀を利用して京都の伝統的な路地のスケールを持たせた。 景観条例等の規制もあって京都的要素が記号的に扱われることが散見される現代の京都において、そうした要素をできるだけ本来的なかたちで共同住宅に適用することを目指して設計した。