審査員講評

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審査委員長 木原三郎
公益社団法人京都デザイン協会理事
株式会社TAKAYASU取締役クリエイティブディレクター
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本年度の特徴は、第6部門が極めて高品質であったと感じております。
今年は皆様ご承知の通り、万博に賑わった1年と振り返りますが、大賞の「大屋根リング」は日本の威信をかけたビッグプロジェクトであり、清水寺にも用いられた和の伝統技法を現代の技術で再現された、正に今年を象徴する建物だったのではないでしょうか。
他の建築作品も大小様々な作品に恵まれ、他年度ならば大賞だったであろう優品が目立ちました。
もう一つの大賞「ブランドデザイン」は大屋根リングとは真逆な作品性ながら、応募方法の変更を上手く利用された作品であり、グラフィックとパッケージの両面から審査対象となる広域な作品であり、第1部門は例年学生からの応募も多い部門なだけに、プロデザイナーの仕事として後進への良い手本で有ったと捉えております。
京都デザイン賞は本年度より応募方法を刷新した事で、初の海外応募もあり、今後は動きのある作品にも期待が膨らむ初年度であった様に感じております。
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審査副委員長 住谷晃也
公益社団法人京都デザイン協会理事
造園家
株式会社杉景代表取締役
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私が思うデザインの重要な点は、「人がどう感じるのかを大切にすること」です。内容や物そのものの価値以上に、デザインひとつでブランドイメージは高まり、知名度が広がります。人々が「手に入れたい」「デザイナーに依頼したい」と感じる。デザインには、そんな無限の可能性があります。
京都デザイン賞では、毎回多様なジャンルから集う作品のデザイン性とその可能性に触れられ、個人的にも楽しみながら審査に臨みました。
今年は万博の話題が次第に全国に広がり、圧倒的なスケールの大屋根リングは真夏の日陰となり、多くの人を楽しませてくれました。壮大な構造の中に人々を包み込む力があり、ランドスケープ表現の可能性を感じます。
第6部門では、建築において切り離せない外部空間との調和とバランスが重要です。
入賞には至らなかったものの、ローム株式会社本館はランドスケープを重視する姿勢が印象的でした。
今後は、生態系や周辺環境にも配慮した作品がさらに増えていくことを期待しています。
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ゲスト審査員 新井清一
建築家
ARAI ARCHITECTS代表取締役
京都精華大学名誉教授
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京都デザイン賞建築関連部門では、規模、領域、さらには用途も千差万別でありながらも、何が重要なコンセプトなのかを表記し、そしてそれらを現実の空間として実現されている力作が多数見受けられました。
他方、京都デザイン賞の特色は何と云っても、他部門の作品群が、同じ審査の机上に於いて選出される事にあります。 その意味で、審査には面白みもあり、また反面審査での基準をしっかり持たずとしての評価は難しいともいえます。 選考された作品群からの選出には独創性、素材、環境が関連する相関性を基準として審査にあたりました。
大賞を受賞した「2025年日本国際博覧会大屋根リング」の魅力は、京都の清水寺の舞台に代表される木材を、貫接合造りで組み上げたモニュメント的な存在感です。
「越後町の家-路地を抜く家」に於いての主題は、既存の条件を活かしながら京町家の持つ特性である路地、光庭を再構築し、組み込んだ新旧コラージュされた点にありますが、意外に双方馴染んでいる空間が生まれています。
「軒先の用心棒」「ORDER」も目に止まりました。
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ゲスト審査員 滝口洋子
ファッションデザイナー
京都市立芸術大学 教授
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「未来を見つめ柔軟な思考と緻密な計画によって生み出されるもの」を京都的と定義し、そんな京都的発想のデザインを世界から見つけていこうと、新しい審査方法による京都デザイン賞が募集されました。 データでの審査は今回が初めてで当初は心配もありましたが、一つ一つの作品について丁寧に協議を重ねることで十分な審査ができたのではと思います。
今年は部門によっての偏りが例年より大きく感じられました。 第6部門の建築はこれまでからパネル審査であったため応募者に戸惑いがなく素晴らしい作品が揃いましたが、第2、第3部門は実物を出さないプレゼンテーションに苦労されていたようです。 その中で「Gaitta よなぬき」や「革帯 おみな」「極もふ歯ブラシ」は素材感やコンセプト、ものづくりの姿勢がよく伝わり評価されました。
「柔軟な思考・新しいデザインの創出」をテーマに、大屋根リングから小さいプロダクツまでが同じ土俵で審査されることや、ジャンルを超えて全員での協議がこのデザイン賞のユニークで魅力ある点だと思います。
 次年度も京都的発想のデザインが広く世界から集まり、このアワードが進化を続けることと期待しております。
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ゲスト審査員 中島信也
CM演出家
武蔵野美術大学 客員教授
なかじましんやオフィス 代表
株式会社東北新社アドバイザー
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京都デザイン賞。それは京都の、デザインの、賞です。優れたデザインはとても大きな力を発揮します。たとえば「住みやすさを作る」、「使いやすくする」といった力。それに加えてデザインには「人の心を豊かにする力」があると思うんです。それは「美しさ」による力です。
この「美しさ」を1200年以上に渡り磨き上げてきた京都。この歴史の上に全く新しい「美しさ」を構築し続けている京都。まさにこれは京都デザイン賞の評価軸です。
大賞の「ADASHINO HOUSE 」シンボルマークが核となって、空間を結びつけ、美しいブランドを構築しています。「大屋根リング」も京都の伝統建築の創意と美しさへの尊敬の上に成し遂げられたプロジェクトでした。
人間の心を豊かにする京都デザイン。今回奇しくも大賞、知事賞、市長賞、商工会議所会頭賞、京都新聞賞、の受賞作品全てが英語を伴った作品名。これは京都デザインがこれから進む道筋を示唆しているのではないでしょうか。世界中の人間の心を豊かにできる、京都が磨き上げてきた「美」の力。京都デザイン賞は新しいステージに突入したのでは、というときめきを感じています。
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ゲスト審査員 村田智明
株式会社ハーズ実験デザイン研究所代表取締役
公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会理事長
一般財団法人大阪デザインセンター理事
大阪公立大学研究推進機構協創研究センター客員教授
WIDA世界工業デザイン協会副会長
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今回の受賞作は、伝統的な美意識と技術が、単なる懐古趣味ではなく、新たな経験創出のために活かされている点に可能性を感じた。
大賞の A DASHINO HO USEは、美しい若松笠のブランドマークを中心に経験価値で再構築したトータルブランディングが、改装された町屋とうまく調和している。 京都商工会議所会頭賞のChudy Stoolは、曲木技術によるミニマルな構造と、広幅座面による快適性を両立した「機能美」の秀作。 町屋にも合うモダン家具として市場展開が期待できる。
KeDDii ALPHA賞のご縁を結ぶカフェの看板は、伝統的な水引の結びでの「人と人をつなぐ物語性」で一点ものが持つ価値を昇華させている。
入選した重ねる京都府マップは、デジタル時代に敢えてアナログな操作を許容し、情報の関わりを直感的に発見させるUXデザインだ。
入選した撫で牛しおりは、北野天満宮のモチーフに「学問=読書」という精神的価値を付加。単なるプロダクトを超え、ユーザーのWillを喚起させている。