審査員講評

新井 清一 (建築家/ARAI ARCHITECTS代表取締役/京都精華大学名誉教授)

 
 本年度の京都デザイン賞の第6部門である建築関連デザインでは、例年建築という領域が広範囲に及ぶがゆえ、本年度は建築デザイン/インテリアデザイン/造園及び環境デザインと分けられた。しかしながら私見ではあるが、審査の過程の中でやはりこれらを単独の尺度で評価するのは、やや整合性の観点から難があるなと感じられた。なぜなら建築の根源的な存在は、広い視野においては都市形成や、景観の一部であり、更にそれらの接点であるファサードと内部空間である中庭ランドスケープ・インテリア等は、連続する中間領域の一部であり、相関的に評価されなければならないからである。応募された作品はこれらの点において、どれもレベルが高い印象を受けた。この部門の作品は、現物のサイズとしての展示はそのスケール故出来ない。よって今回は、図面審査、予備審査、本審査、により行なわれた。
 大賞の「JR西日本不動産開発ヤサカビル」は、前述都市景観との接点である重くなりがちなファサーの存在を、ガラスの屏風というエレメントをランダムに配し、周辺の空間、空の色合いをグラデーションという手法を伴い、曖昧性空間を創生している。また奥行きの深いロビー空間は光庭としても機能し、空間に和みを与えている。
 知事賞「HIYORIチャプター京都」は特に客室インテリア空間に、おもてなしのデザインを施した邸と呼称がつけられるにふさわしい雰囲気を醸し出している。
 京都商工会議所会頭賞「ザ  ロイヤルパークホテル  アイコニック京都」この作品においての特徴は、街に接する客室であろう。新旧の象徴、白と黒のコントラストと共にイメージに大きく貢献しているのは60㎝厚の耐震壁、及びボイドスラブにより外壁部の梁尾全て無くした効力による開いた空間である。
 「プリンス  スマート  イン  京都三条」は何と言っても、旧市街の新しい風景を念頭に思慮深く、かつ仔細に組み上げられたコンテクストをもとに組み上げられている。
 「いろり土間の家」は土間という半屋外/半屋内の中間領域、の創成、更に芝生の庭と家庭菜園をつなぐ素直な構成でありながら、多様なコミュニケーションを作り得るいろりと薪が美山住む、と重なり合うキーワード。
 「枯山水」は、量はどれほどあるのか判明しないが、食べる過程を楽しみたい。
 

滝口 洋子 (ファッションデザイナー/京都市立芸術大学教授)

 今年度から第6部門の建築関連デザインの審査方法が変わり、審査員も増えて賑やかな審査となりました。また各部門で学生の新鮮な作品が多く見られたように思います。
 ファッション・テキスタイル部門の参加がなかったことは残念でしたがこれは次年度に期待をするとして、今年は以下の作品が印象に残りました。
 「京の花 ブローチ」 ケースにたくさん並んだ着物地のゆるくまるいブローチは一つ一つが違っていて同じものはありません。不揃いなかたちの手作りのクッションにビンテージのビーズやメタル刺繍が煌めき、暖かさとともにいつまでも見飽きない魅力があります。昨年受賞されたきもの地サシェに続いての受賞で、今回は年齢や性別を問わず誰でもお気に入りのブローチを選ぶことができそうです。
 「HIGHLIGHT」はカラフルな房とナチュラルな木の珠でできた若者用のお守り珠数です。それぞれの思いを込めて身につけ、握る所作が目に浮かびます。
 「SOOの年賀状 おふき」は京友禅のスマホ拭きの柄をみせて年賀状として送る楽しいアイデアでした。
 これらは京都の伝統産業の技術を大切にしながら新しい時代に向けた提案だといえます。審査では上記のような作品と同時に大規模な建築の作品も同じテーブルで検討を重ねます。難しい作業ですが、比べるというよりさまざまな専門家の意見を聞いてその作品のもつ意味、社会への影響などいろいろな方面から話し合います。
 受賞作品展の時にみなさまもぜひ京都というテーマを意識して全体の作品をご覧いただければと思います。
 

中島 信也 (株式会社東北新社エグゼクティブ・クリエイティブディレクター/CMディレクター)
中島  信也(武蔵野美術大学客員教授)

 デザインはコミュニケーションやと思います。もちろん機能価値を高めるという大切な役割があるのは確かです。機能価値を高めるためだけのデザインも存在してます。でもデザインはそれ自体で見る人聞く人触る人使う人の心を動かす力を持ちます。機能の優秀さによって動かされる心もありますが、その「表現」によって人の心は大きく動かされます。観光客の皆様も「心が動く」という期待を胸に京都を訪れるんやと思います。今年の大賞「ヤサカビル」。窓を屏風に見立ようとする意欲的「表現」。これは心を動かし、街行く人とビルとの間でなんらかのコミュニケーションが生まれるのではないでしょうか。名刹ではない新しい京都とのコミュニケーション。新しい京都の魅力を創出する作品として高く評価したいと思います。今年、建築以外の部門の大賞を選べなかったのは残念ですが「京都新聞賞」に選ばせていただいたグラフィック「京都でいきてるよ」はとにかく大好きです。これが「丹波で生きてるよ」ではなくて「京都」やからこそ新しいんです。とっても心を惹かれます。「ヤサカビル」とはだいぶスケールが違いますが、動かす心は人の心、一緒です。ここに描かれている「ワタシ」。京都デザイン賞の歴史の中で、ここまでパーソナルな心を表現したものはなかったと思います。このパーソナル性が作る人と見る人の間に素敵なコミュニケーションが生んでいます。今後、この賞を考えていく上で、この作品は一つのヒントになるんとちゃうかな、と思いました。
 

村田 智明 (株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役)
     (大阪公立大学研究推進機構21世紀科学研究センターイノベーション教育研究所 客員教授)
     (九州大学非常勤講師)

 京都市長賞のMEGURUは一風変わった台形の朱印帳だが、ここに思いつかないようなトリックが組み込まれている。1ページごとの形が台形で折り畳みを繰り返すと1周の円形になるという構造で、ページをめくっていくと元の所に戻ってくる。数珠や摩尼車を回して祈るような朱印の足跡は本来の朱印帳の意味を成すのではないだろうか。
 京とうふ藤野賞の柄豆腐は、家紋のような和柄を題材に繊細な型枠で離型された豆腐。お皿に盛りつけられた白い豆腐は凹凸の印影だけで文様が浮かび上がる。食卓をいつもと違う感動で彩るアイデアだと思う。
 入選のSOOの年賀状〜おふきは、高台寺のあまびえの絵を題材にした眼鏡拭きが祈祷されて送られてくる年賀状。古を偲ぶところと現代的な実用感覚がミックスしていて、そこに意外性と驚きがある。
 入選のDICE〜賽の目は、立方体の対角にシャフトを通し電球を囲むように配置されたスタンド照明で、逆光で陰となるDICEとテーブルや床に移る影、立方体が生む陰影が上手く計算されている。
 入選のSTAND WEIGHTは、アルミ鋳造でできたデスクトップスタンドで、眼鏡やペン、アクセサリーなど置き場に困る身の回りのグッズをアイコニックに収めてくれる。
 入選の都鶴は、鶴の羽根が折り重なる様を半透明の紙の重なりでうまく表現している。この表現だけで十分美しいので赤のライン、リボン無しで勝負できる作品だ。
 

八木 義博 (株式会社電通zeroエグゼクティブ・クリエイティブディレクター/アートディレクター)
      (京都芸術大学客員教授)

 初めて京都デザイン賞の審査に参加させていただいたのですが、京都というテーマで平面から立体、映像から建築・インテリアと多岐に集まってくるところが面白いと感じました。自分とは違うジャンル出自の審査員の方々のご意見に何度もハッとさせられましたし、入選された作品たちはそのさまざまな視点をくぐり抜けた優秀作品ということになると思います。
 大賞に輝いた建築作品のガラスの屏風というアイデアは、コストや納期、素材の耐久性や法律などたくさんの制約の中、なんとかしてビジネスの中に「京都らしさ」をオリジナルに表現しようという意志を強く感じました。パッケージやグラフィック関連のカテゴリでは学生作品の自由で伸びやかな発想が目立っていましたし、表現したいという気持ちが伝わってきて心地よかったです。
 全体的にステレオタイプな京都。というイメージに囚われている印象もあったことから、「京都」をもう一度観察し直し、その捉え方を独自のものにすることが必要なのかもしれません。自由な発想が求められるのですが、自ら設定するコンセプトをひとつのルールや制約にすることで、逆に表現や定着は作りやすくなる。それが他者との差別化につながっていくのかとも思います。次年度へ向けて、審査員団の意表を突く作品に期待したいと思います。